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令和2年、自殺者をみる。若きウェルテルと月曜

ここ最近、不登校・ひきこもり・生活困窮者など困難を抱える人々にかかわるNPOを探している。そこで働くのでも、寄付をするのでも、ボランティアするのでもなんでもいいが、なにかしらをしたい。自分で立ち上げても良いが、友達がいないので10人の理事を集められない。NPOを探し始めた明確なきっかけはない。思いと行動だけがある。

私は社会学部出身であるから、まずは社会を知ろうとすることから始めなければならないと考える。困難を明確に抱えていたであろう人、つまり自殺をした人のデータを見る。特にこの2020年、私たちはたくさんの困難を抱えたはずであるから。

自殺者数の動向

2020年、令和2年はコロナウィルス一色の年だった。今年の漢字には「密」、流行語大賞には「3密」が選ばれ、2011年東日本大震災における「原子力緊急事態宣言」以来となる緊急事態宣言が発令された。経済面では、日経平均株価が一時1万6000円台まで落ち込み、しかし年末には2万7000円台まで上昇するなど異常とも呼べる大きな変動があった。生活面では、飲食店の営業自粛要請、新しい生活様式の提示によって常に新型コロナウィルスを意識せざるをえない状況があった。罹患者を自称し咳をした男性が威力業務妨害の罪に問われる事件、県外ナンバーの車に過剰な嫌がらせが行われる事件、罹患者を出した家庭が村八分にされる、またはそれを恐れた肉親から「帰ってくるな」と言われるなどの話題もSNSで注目を集めた。

コロナウィルスは個々人の日々の暮らしや健康状態・精神状態にも少なくない影響を与えた。2009年以来自殺者は減少傾向にあったが、2020年では11年ぶりに増加傾向となった。

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男女別で見ると、男性14,055名、女性7,026名と引き続き男性の自殺者が女性の2倍程度見られる傾向は続いている。男性の自殺者数は数の上では11年連続の減少傾向となり、女性は2年ぶりに増加傾向となった。一方で、人口10万人当たりの自殺者数では男女ともに増加傾向となる。つまり、男性の自殺も決して減っているわけではない。

直近2年と月別で比較すると、2020年は年の後半、7月以降の自殺者数が特に多い傾向が見られる。

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判明している範囲での動機は、健康問題が10,195、経済・生活問題3,216、家庭問題3,128と引き続きこれら3分類が数値的には大きい。注意したいのは、自殺は様々な要因が絡み合って行われるものであるので、実際のところこの分類にさほど大きな意味はない点である。経済・生活問題から精神に不調をきたしうつ病となればそれは健康問題ともなる。数値は現象としての自殺を捉えることに役立つが、行為としての自殺を知ることにはつながらない。

関連し得るデータとして、帝国データバンクによる企業の倒産数を挙げる。

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東京商工リサーチに依る休廃業・解散数は以下となる。

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倒産件数は減少しているが、休廃業・解散数は増加しており、東京商工リサーチ 2020年「休廃業・解散企業」動向調査によれば合計12万6,550人(前年比26.4%増)の人間が休廃業・解散の影響を受けたという。前年比から見て、これはとても大きな増加と言える。

参考・データ引用

話題としての死

2020年は著名人が亡くなるニュースも注目を集めた。コロナで亡くなった方々として、3月に志村けんさん、4月に岡江久美子さん、同じく4月に岡本行夫さん。自殺と報道された方として、7月に三浦春馬さん、9月に芦名星さん、同じく9月に竹内結子さん。

連日のニュース番組で統計的なコロナの犠牲者数が取り上げられていたのは言うまでもないが、特に著名人の方々が亡くなられた際にはそれ以上に大きな注目を集めた。テレビでは速報が流れ、SNSではトレンド入りし、「死」が少なくとも例年以上に話題となった年であるといえる。

先ほど挙げた月別自殺者数のグラフを再掲する。前半6月までは例年よりむしろ自殺者数が少ない状態で維持されていること、三浦春馬さんの自殺報道がなされた7月以降の自殺者数が顕著に増加していることに注目したい。

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これがいわゆるウェルテル効果による増加なのかは不明であるが、2名が亡くなられた9月以降、特に10月の増加数も顕著である。少なくとも連日の自殺報道が人々の心に幾らかの影を落としたであろうことは想像に難くない。

次に、人々の生活状況の変化をみる。月毎の休廃業・解散企業数を挙げる。

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まず5月の倒産数が少ないことに目がいく。次に、6,7月に倒産した企業が多いことは読み取れるが、自殺者数との有意な関連があるかどうかは読み取れない。

社会的情勢でいえば、2020年6,7月頃というのは様々な制限が解除され始めた頃だった。2020年4月7日に東京、神奈川、埼玉、千葉、大阪、兵庫、福岡に緊急事態宣言が出された。4月16日に全国が対象となり、5月14日に39県が解除、5月25日に全国解除となった。6月には全国の移動制限が解除された。首都である東京都のみに焦点をあててもおおよそ同様の流れとなっている。6月以降休業要請の緩和を始め、6月後半には休業要請全面解除。その他、GoToトラベルキャンペーンが7月から東京以外で開始された。

自殺者は数値では考えられない

自殺者は数値では考えられないし、どれだけ考えたところでわかることでもない。自殺と報道された著名人の方々がなぜその行為に至ったのか、それは本人にしか分からない。あるいは、本人ですら分からないのかもしれない。そのため、上記データと事実から個人の死や思いについて何かしらの結論を出すことはしない。よって、個人的な推論までに止める。

過去34,000人もいた自殺者が20,000人に減っているという数値は一見素晴らしいことのように思える。実際、2020年の自殺者は私の想像より少なかった。肌で感じた世間的雰囲気の陰鬱さから想像するに、数としての自殺者は40,000か、もっと増えていると思っていた。それがむしろ10年前,11年前より遥かに減っているというのだから、当時に比べて世間は多少なりとも明るくなったということだろうか。それとも、10年前11年前にも確かに横たわっていたはずの陰鬱さを、ただ私が忘れてしまっているのか。それは分からないし、当時の亡くなられた方の切実な思いと2020年に亡くなられた方の切実な思いの違いも、証明のしようが無い。しかし、20,000の遺体が焼かれ、20,000の穴が掘られ、20,000の墓石が建てられるのだとしたら、それを思ったより少なくてよかった、ということは私にはできない。

思いの外倒産件数は少ない。休廃業が増えていることについては、4,5月の緊急事態宣言を乗り越えたものの、経済の復活を待てるほど体力のなかった企業が一斉に休廃業したとも読み取れる。しかし一方で、黒字のまま休廃業を選択した企業も半数以上あるというデータもある。この事実と当時のGoToトラベルに対する批判やワクチン実用化タイミングが未定だった状況を鑑みるに、すぐさまコロナの収束がなされるという確信を持てた経営者は少なかったようだ。緊急事態宣言の解除、という希望を持って4,5月を耐えた人々が、あやふやな雰囲気のままカタルシスなく解除されたことに落胆を覚えたのか。それとも4月から7月までの3ヶ月という期間が、多くの人々にとって孤独に耐えられる精一杯の期間であったのか。ウェルテル効果による「自殺の流行」という現象が当時起こっていたのかは分からないが、未だ暗い社会の雰囲気の中、休廃業により転職・転居を余儀なくされた人々が著名人の自殺報道を見たとすると、確かに何かしらの影響を受けることはなくもない話に思える。報道の罪であるとは言わないが、ある方向に向き直った人がその一歩を踏み出すきっかけは、決して大きなものであるとは限らないことは多くの人が知るべきことだと思う。

厚労省患者調査によれば、ここ数年、数十年の間に精神疾患の件数は大きく増えている。

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気分障害を示すオレンジ部分から読み取ると、リーマンショック東日本大震災など大きな社会変動から数年の間に人々は心を病み、またそれを自覚し始めるのだと私は推察している。コロナウィルスとその影響はどれだけの人にどのような影響を与えるのだろう。数値上での「自殺された方」の数はここ10年で確かに減ってはいるが、しかしこの精神疾患の件数を見るに「自殺者」が減っているとは思えない。つまり、福祉の手は現状十分に届いていない。現実として、行政の保護は彼らに届かない。行政が手を伸ばせない、伸ばさない範囲に手を伸ばす民間団体が、地域・社会福祉の一番底のセーフティネットを担っている、と、私は思っている。だからこそ、私は今NPOを探している。身体でも精神でも金銭でも、何かしらネットの一部になろうと、この月曜日、考えている。